電車内『痴漢』を振り返る
「痴漢」とは、 実に不思議な言葉である。文字だけを見れば、 「痴」は「おろかな」 、 「漢」は「男」という意味である。しかしながら、現在「痴漢」といえば、もっぱら「女性にみだらな行為をする男」という意味で使われる。
「痴漢」の文化史
――「痴漢」から「チカン」へ―― 岩井茂樹
痴漢とは何なのか?
……女性のモノ化、フィクションの再現欲求、女性嫌悪。
痴漢という言葉の後ろに潜んでいる悪意は、とても一言で表せられるような単純なものではない。
しかし今回の目的は別にある。
電車の歴史と共にあるといって過言ではない『電車内痴漢』。
電車内の女の被害と戦いの歴史を、できる限り振り返ってみよう。
大きな事件
電車内痴漢は、明治時代から毎日起こっている。
しかし『地下鉄御堂筋線事件』が起こるまで、痴漢はいたずらか自然災害のように扱われていた。
しかし重大事件が起こってなお、根本的解決には至っていないのが現実である。
地下鉄御堂筋線事件
「痴漢は犯罪」ポスターが生まれるまで 大阪「性暴力を許さない女の会」の28年
地下鉄御堂筋線中津駅構内での強制性交事件
白昼の駅ホームで……コロナ報道の裏で凶悪性犯罪事件の裁判が「あっさりと」終結
これまでの取り組み
市井の女性たちも、ずっと手をこまねいてた訳ではない。
現在に至るまで、当事者たちによるさまざまな取り組みが行われている。
痴漢抑止バッジプロジェクト
痴漢防止スタンプ
30分で完売 ツイートが生んだシヤチハタ“痴漢防止スタンプ”
安全ピン(イエローピン)
痴漢されたら「安全ピンで刺す」は正当防衛か傷害罪か? Twitterで大論争
社会運動はどうやって起こすか
バッジをつける。
シャチハタを買う。
安全ピンを持っておく。
どれもひとりで生き延びるため、市井の女性たちが繋いできた知恵だ。
しかし根本が変わらなければ、問題は解決しない。
鉄道会社も警察も役に立たないなら、どうすればいいのか?
同じ電車内に痴漢を絶対に許さない人が、一人以上存在しているという社会を作るしかないだろう。
しろやまさんが続けてこられたツイートの何が特別なのか。
電車の中で自分が見ていると、言ったからだ。
Twitter上にいた市井の女性たちは、しろやまさんのこのツイートを鮮烈に覚えている。
この時をもって電車内痴漢は、当事者の女生徒たちが孤立無縁で戦う犯罪ではなくなったからだ。
何の力も持たないひとりが始め、賛同者が少しずつ増え、日常が変わること。
それを社会運動という。
謝辞
当記事を執筆するきっかけをいただいた『性暴力を許さない女の会』の栗原さんにお礼申し上げます。
最後に下記記事から、栗原さん、Yさんのコメントを引用いたします。
栗原さんのコメント
大阪の「性暴力を許さない女の会」の栗原です。
しろやまさんにエールを送ろうかと考えましたが、こちらの「緑の目」さんのブログに送った方が、しろやまさんに共感する女性たちに届くのでは。また、短いTwitterでは伝えきれないと思い、こちらにコメントさせて頂きます。
私たちが「会」を立ち上げたのは1988年11月4日に起こった「地下鉄御堂筋線事件」に揺さぶられたからです。
通勤電車の中で、一人の女性がふたり組の痴漢に被害にあっていたことを目撃したAさんが、そのふたり組の痴漢男を注意しました。
すると彼らは数日前に自分を痴漢した男たちでした。
「あんた達までやっているの!」
Aさんは逆恨みしたふたり組に両手を捕まれ連行されて、御堂筋線のある駅で降ろされ、工事現場で輪姦されました。
Aさんは男たちの報復にもめげることなく、警察に被害届を出しました。
このことを新聞記事で知った無名の女性たちが「これを許したら、痴漢に声を上げられなくなる。Aさんの行動に共感を示して孤立させない」と電鉄会社や鉄道警察に「痴漢は犯罪である」と掲示するように要求しました。
(中略)
鉄道会社には「小さな暴力・迷惑行為をなくすようにアナウンスしている」と拒否され、痴漢という言葉を使うことも拒否された。
翌年4月には「ストップ・ザ・レイプ」という400名の集会を開いた。
その5年後に「ストップ痴漢アンケート」を実施、2000名のアンケートを集約して冊子にして電鉄会社・鉄道警察隊に配布した。
1994年に鉄道警察隊から「ポスターを作ったので意見を聞きたい」との連絡があり、行ってみたら「痴漢は犯罪!」というポスターが出来ていた。
当時は朝日新聞の女性記者も知り合いにいて、報道に協力してくれて大きな記事になったのですが、この経過の中で、共産党や新婦人の方はお見受けしなかったし「赤旗」に記事が載ることもなかった。
その後私たちはセクハラ・性暴力裁判に忙しく、再び痴漢被害に向き合ったのは2019年の「地下鉄御堂筋線中津駅構内での強制性交事件」であった。御堂筋線電車内で痴漢にあった女性が、中津駅で強引に降ろされて、工事中の機材の中でレイプされた事件。
裁判の傍聴にも行ったが、この事件で私たちは無力感に襲われた。
そんな中「共通テスト痴漢撲滅」の動きを知って、とっても元気をもらったことを思い出す。
そのお礼が言いたくて長々と書きました。
伝えわすれたことがあり、また書きます。
「声を上げた女性を運動に利用してはならない!」という原則です。
「御堂筋線事件」で運動する際に、私たちはAさんに手紙を書いて、警察経由で渡しました。
「これから大騒ぎしたい。
でもそのことで事件を思いだしてシンドクなられるかもしれない。
それは本意ではないので、運動することについて貴女の意見を伺いたい。
そっとしておいて!というご意見なら、あなたの意思を尊重します」
かえってきたお返事は「あなた達が自分のこととして運動してください」でした。
泣けました! 以上補足です。
栗原睦
Yさんのコメント
お疲れ様です…!
記録として残さないと女の足跡はすぐに消されてしまうのでありがたいです。
2019年のあの時期、ちょうど自分も21歳とかで人生の新たな踏み出しをしている場所での性的ないやがらせに悩んでいて、
抵抗できずらい環境の学生を狙った性加害への怒りと見守りのツイートとその反響を見て勇気をもらって「自分も…!」と思い抵抗して抜け出すことができたのを思い出しました。
それがまさかこんな形で最評価されるのは悲しいばかりです…
結果的にあなた達にも恩恵あるからいいでしょじゃなくて、何の力も無い人々の草の根の活動や声でも何かを変えていけるんだって、
その事実を強い立場の人間が踏みつけて消すのは歴史上の女性達が受けてきた扱いと同じで、
それをフェミニストを名乗っている人達がするんだって絶望がありますね。
みんな特権や権力を持つ立場になると階級差とか力を持てない人々の事を忘れてしまうんだな、社会の片隅で生きている声も出せない女性たちの味方は誰がしてくれるだろうって思います。
Y
熱いコメントをいただき、ありがとうございました!
しろやまさん
しろやまさんに賛同し受験生を守る活動を続けてきた、数多の名も無き女たち
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